“イノベーションを必ず起こす”という強い気持ちで、ベンチャー企業への出資等に積極的に取り組んできたJR西日本イノベーションズ。そんな弊社をいつも一番近くで見ていただいた経営共創基盤(IGPI)共同経営者である塩野誠様。
イノベーション&チャレンジデーでは、「アフターコロナのオープンイノベーション」をテーマに、コロナによる世の中の変化やオープンイノベーションの進め方など、多くの貴重なヒントについてご講演していただきました。
~アフターコロナの変化点~
まず、企業がどのような形で新規事業など新しいものをつくっていくのかというと、多くの場合は、自分たちで作るのか、外部の力を借りるのかのどちからです。「買う、借りる、作る」を企業内で整理して、事業等を始めることになりますが、この3年弱で世の中は、コロナによって様々な変化が生じています。コロナ禍で生まれた大きな変化をリスクとみるか、逆に自分たちの会社を変えていく機会ととらえるか。自分たちのとらえ方で、企業の成長は大きく変わっていきます。人(企業)は、コロナのような“危機”がないと変わろうとしないからこそ、自分たちの変化へのとらえ方が重要です。具体的に私の感じる変化は、大きく3つです。
1つ目は、「勤務スタイルの多様化」です。コロナを機会にリモートワークやハイブリッドワークが増えました。リモートワークの活用でプライベートの時間をフレキシブルに利用できるようになった人の中には、以前のようなフル出社に戻った場合は退職も検討するなど、勤務スタイルの変化が転職の判断にもつながると話す方もいます。
2つ目は、「人不足、調達コストの高騰」です。コロナの影響が落ち着き、インバウンドが戻りつつある中、接客業では人材不足が見えています。合わせて、原材料の調達コストの高騰も世界中で感じる変化です
3つ目は、「消費行動の変化」です。アフターコロナでの消費者の行動は変化しています。
この3つの変化をしっかり踏まえて、企業内で“オープンイノベーション”の考え方を整理していくことが重要です。
~自社の価値を外部と結びつける~
多くの人が物価の上昇が賃金の伸びより大きいと感じている中で、「時間とお金」を何にかけているのか、変化する生活を見てみましょう。
① 情報は動画やSNSから得る。
② こだわるものと手ごろなものを分けて身の回りのアイテムを揃える。
③ 自分が応援しているファン(推し)への投資やコミュニケーションに価値があると感じている。
このような層を、どのようにして自社へ興味引き付けるかを考えることが大事です。
世間で流れている短尺動画のユーザ滞在時間は8~10秒で、今や企業商品等のキャッチコピーもAIが簡単に作ってくれます。オンライン上での活動がコロナ禍で急激に高まり、“リアルとオンラインの融合”が生まれた中で、リアルビジネス(鉄道やインフラ)をもって人々に安心安全を届けている企業は、何ができるのか考えます。多くの日本企業は、この10~15年の間、オープンイノベーションに向き合ってきましたが、新規事業を起こす場合に大切なことは、自社のケイパビリティは何があるのか、自社を知ることから始めることが大切です。
JR西日本イノベーションズも、自社のケイパビリティは何かを考えぬいて、外部の何かと組めるのではないかと検討し、“オープンイノベーション”に向き合いながら取り組んできた歴史があると感じています。
まずは、「自社の価値を、外部の何かを利用し、バリューチェーンを構築した上で、何を解決したいのか」を、企業内で整理することです。一方、スタートアップ企業やベンチャー企業は、出資等を受けたい企業のバリューチェーン上で何ができるか、どのような新たな価値を与えることができるのか、と伝えることで、相互に新たなものが生まれます。
~オープンイノベーションに必要な要素とは~
社内でオープンイノベーションを始めるための問いとして、「買う、借りる、作る」の中で、なぜそのオプションを選んだのか理由を固めることが大事です。さらに「いくら儲かるのか、いくらキャッシュフローが生まれるのか」をしっかり社内で説明できることが基本です。つまり、新規事業を始めるためには“自社に足りないパーツを柔軟に探す”ということです。
また、イノベーションを起こすためには、社内の環境整備ができていることが大きく影響します。これは、事業の目的や事業をつくり上げるまでの時間軸の共通認識ができていることや、期待値をコントロールできていること、エース人財をプロジェクトに投入できているかということです。
さらに、オープンイノベーションへの本気度も大切です。一人でも本気でやろうと思う人がいないと新たな事業は前には進まないですし、人事評価に左右されず、10~15年の長期に渡り人財がひとつの事業に携わっていくこともイノベーションに大きく影響しています。
一番大事なことは、『誰のどんな問題を解決しようとしていますか?』と問うことです。今の事業を改善することがDXと受け止められていますが、本来の意味は“まったく違うものをつくる”ということです。
JR西日本イノベーションズは、ベンチャーキャピタルとして、誰かの課題を解決するために取り組むベンチャー企業に投資をし、そのベンチャー企業の利用者がJR西日本にどのような良い影響があるのかを考えながら進めたことによって、ベンチャー企業に投資をした最初の目的を失わずに続けることができていると感じています。
ビジネスの本質は変わらず、企業として「課題解決を念頭に、お客様にどんな体験をしてもらうのかを考え、アフターコロナで変わった様々な生活スタイルに応えることができれば、競争にも勝てるのです。ぜひ、誰かの何かを解決しましょう!!」